Poivre du Sichuan (Séchuan) / 山椒(花椒)
料理に使われ、俺たちが口にする素材の中には、『麻薬』と呼んでも過言ではない、そんな食材が『いくつも』存在します。
「麻薬」という言葉をどう定義するかによってその捉え方は異なりますが、人間の知覚(多くの場合、それは味覚・嗅覚)を刺激し、あるときは麻痺させ、恍惚とした感情、酔い、脱力感、依存症に近い感覚、その他諸々、あらゆる効用・作用を人体にもたらす食材が数多く存在することは誰もが周知の事実です。
『食べること』
それは生きていく上で必要不可欠ですが、摂取するものを間違えると、それは「諸刃の剣」になります。
人体に与える影響を考えた場合、それが『毒』であるのかどうか、非常に微妙な食材がいくつも存在するんです。
「トリカブト」など、人体にとって猛毒で、ほんのわずかな量で死に至らしめる植物もある。
「天狗茸」などの毒茸の存在も忘れられません。
…これらの例ならば、非常にわかりやすい。
しかし、『銀杏(ぎんなん)』はどうでしょう?
少量ならば何の問題もありませんが、多食すると食中毒をもたらす危険性をはらんでいます。
その他にも、多くのアルコール飲料は?
カフェインは?
すべての動物性脂肪は?
多用すると間違いなく、何らかの悪影響(それは吐き気であったり、意識がもうろうとしたり)をもたらすスパイス、『スターアニス(八角)』は?
強烈な防腐作用のあるスパイス、『クローブ(丁字)』は?
成長ホルモンや、抗生物質漬けにされた食肉・加工食品は?
「偽り」の健康食品は?
…ハッキリ言って、キリがない。
ちょっとだけ話がそれましたが、今日は、ぜひ紹介したい食材があるんです。
俺が「これって明らかに『麻薬』じゃないのか?」と常々思っている食材の一つ、いや、事実これはある種の『麻薬』です。
山椒(さんしょう)です。
あなたは、生の「山椒の実」をかじった経験がありますか?
既に粉末になっているものではなく、本物の山椒の実を?
ピリッとしたさわやかな辛味とともに、舌に触れる鋭い刺激。
一瞬、舌の感覚が麻痺したかのように感じます。
…事実、それは「麻痺している」のですが。
麻婆豆腐をはじめとする、あらゆる中華料理に必須のスパイスであり、俺のキッチンにも常備してあるスパイスでもあります。
中華料理の世界では、山椒がもたらすこの辛味を「麻」(マー)と表現するそうです。
ここで連想するのは、もちろん、「麻薬」の『麻』。
多くのスパイス類と同じく、山椒を料理に効果的に使うことができれば、時を経て、「あぁ、あの料理、また食べたいなぁ…」と思わせるインパクト、記憶の片隅に喰い込む強烈な印象を残すことが出来ます。
「またあの料理を食べたい」
そう思ったとき、または思わせることができたとき、それはまさしく、『食材』が『麻薬』に変わった瞬間ではないかと思います。
誤解を恐れずに、もっと過激な言葉で表現するならば、それは『食材』を『麻薬』に変えることができた瞬間。
以前、フォアグラを焼くときに、胡椒の変わりに山椒を使ったことがあるのですが、その結果、まさに麻薬中毒的な、常習性のある、病み付きになる感覚を隆起させることに成功しました。
山椒。
その他のすべての食材と同じく、俺のインスピレーションを大いに刺激する魅惑的な食材のひとつです。
そして、山椒の使い方に成功したとき、それは俺の中で、山椒が『食材』から『麻薬』に変わる瞬間でもあるのです。
鰻(うなぎ)の蒲焼に使うくらいしか思いつかない?
…それなら今度、何かしらの肉料理を作るときに、胡椒の変わりに山椒を使ってみてください。
その結果、少なからず「麻薬中毒」になるはずです。
「山椒中毒」に。
それから最後に、今度レストランに行ったとき、メニューを開いて、もし「フォアグラと山椒」の組み合わせを見つけたら、是非その料理を注文してみてください。
その値段に怖気づくことなく。